第22回
2024.12.01
暦も替わり、今年も師走となりました。
情緒豊かな「日本の秋」が今年もあっという間に過ぎ去っていくのを寂しく思いながらも、自然の恵みは変わらず、その季節ごとに惜しげもなく私たちに与えてくれます。
この時期はなんといっても、鱈(タラ)の白子のシーズンです。
「魚」へんに「雪」と書くことから、鱈は冬に旬を迎える魚だということはなんとなく想像がつくのではないでしょうか。
その通りで、鱈は寒い冬が旬の魚です。特に最高の白子が味わえるのは12月中旬から1月後半までの期間だけだそうで、これから旬の本番を迎える食材です。その時期の逃さないためにも、今回は鱈の白子についてお話ししたいと思います。
白子といえば、一般的に河豚や鱈の白子のことを思い浮かべると思いますが、鱈の白子については別名「雲子」や「菊子」と呼ばれるので、そちらの方がピンと来るかもしれません。北海道では「タチ」と呼ばれているので、北海道の方にはそちらの呼び名のほうが親しみがあるかもしれません。
さて、白子がどこの部位だかご存知でしょうか。
白子は魚類の精巣、つまり魚のオスからしか取れず、しかも魚体の大きさや季節に左右されるため収量が限られる希少な食材というわけです。
旬を迎えた鱈のお腹は白子ではちきれんばかりの状態になります。よく私たちがお腹いっぱいになるまで食べた状態が、白子でぱんぱんになった鱈のお腹に似ていることから、「たらふく食った」という表現がされるようになったわけです。
鱈が餌をお腹いっぱい食べた様子というわけではないのですが・・・。
鱈の生息海域は、日本近海では、太平洋側は茨城県以北、日本海側は山口県以北に生息します。 生息場所は、タラは水深の深いところにいる魚で水深200m前後の大陸棚やその斜面の岩礁域に生息し、日本近海では水深150m付近に多いということです。
また、みなさんよくご存知のタラバガニ、その生息海域も、実は鱈の生息海域となっています。タラバガニのタラバは「鱈場」、つまりタラが生息している海域に生息しているのでタラバガニという名がつけられたそうです。ですから、先に述べた日本近海以外では、北海道以北のオホーツク海やベーリング海、アラスカ沿岸などの冷たい海にも住んでいるということです。
さて、その鱈の白子ですが、いつ頃から食べられているのでしょうか?
室町時代の政所執事代・蜷川親元の日記である『親元日記』(ちかもとにっき)がというものがあります。これは、足利義政政権の政務体制を窺い知ることができる貴重な史料で、現存しているのは、1465年 – 1486年の22年間の分だそうで、自筆原本も一部残されているということです。その日記から、
室町時代の『親元日記』(寛正6/1465年正月の条)の中に、「鱈の膓(タラの腸)」を「不来々々(コズコズ)」またはゲン担ぎで逆の「来々(クルクル)」と呼び換えて、新年の食べ物に供するとあり、これは「タラの白子」の事ではないかと考察される
と分析されています。つまり室町時代から白子が食されていたのではないかと推察できます。
自然の恵みであり、そしてまた先人の知恵でもある旬の食材の数々。
白子のその内の一つで、たんぱく質など健康に良い栄養が実に豊富です。
白子は、100gあたり13.4gのたんぱく質を含みます。そして体の機能を正常に保つビタミンですが、白子はビタミンD、E、B群が豊富です。一般的に、きのこ類はビタミンDが豊富であるといわれていますが、白子は100gあたり2.0μgと、きのこであるしめじの4倍ものビタミンDを含んでいるのです。また、体の調子を調えるミネラルですが、白子には、カリウムやリンが豊富に含まれます。
気になるカロリーについては、白子は100gあたり60kcalで糖質0.2gと、一般的な食材の中では低カロリーかつ低糖質な食材と言えます。
特に注意する点といえば、白子には痛風の原因となるプリン体が多く含まれているということです。プリン体とは、プリン体は食品のうまみ成分であり、新しい細胞を作り出すために必要不可欠な「核酸」の構成成分でもあります。つまりプリン体は私たちが生きていくうえで、とても重要な役割を果たしているのですが、プリン体の過剰摂取は尿酸値を上げ、痛風の発症リスクを高めてしまいます。一方でプリン体を制限しすぎると食事が味気なくなったり、必要な栄養が不足したりします。なので、プリン体は過剰摂取に注意しつつ、適度に摂り入れると味わい深い食事となるということです。
そんな旬を迎えた鱈の白子。トロッとした食感は「冬の味わい」が楽しめます。
葉むらでは、おろしポン酢で召し上がっていただけます。
ぜひ旬の味わいを堪能しに、葉むらに足を運んでみてください。
(次回につづく‥‥‥)
(文:立)
注釈:文中で取り扱っているデータ等については、AI(Bing AI/Gemini)との対話及びネット情報、文献等からの筆者独自の分析によるものです。
参考文献:『天ぷらのサイエンス』(誠文堂新光社, 2022)