「葉むら」の暖簾にふれて

第8回

2024.02.22

 欧米的な食が好まれる中、それでも日本人の食生活というものは和食なしでは成立しないでしょう。ちなみにBing-AIとチャットしてみたところ、ほぼ毎日和食を食べる人は約49%、週に3~5日和食を食べる人は約38.6%、合わせておよそ9割の人が和食をよく食べているという答えが返ってきました。さらに年齢別に見ると、若い世代ほど「ほぼ毎日」和食を食べる人は減少しており、20代以下では約3割程度とのことです。一方、60代以上では約5割以上が和食を食べているということでした。これは日本人なら1週間の食事のうち何度かは和食を食べているということです。つまり日本人にとって和食は欠かせないものであると言えそうです。

 和食の中で天ぷらは、江戸時代中期、江戸庶民の食を象徴する食べ物だったわけですが、それが流れる時間の中で日本全国に広がり和食の人気メニューとなったわけですが、Bing-AIに「寿司、そば、天ぷらのうち、最も技術を要するものはどれか?」と訊ねると、「寿司、そば、天ぷらのうち、最も技術を要するのは寿司です。」という回答をする一方で、「寿司と天ぷらどちらが職人技術を要するのか?」という二択の問いには、「寿司と天ぷら、どちらも高度な職人技術を必要とする料理です。」という回答でした。そばと天ぷらについても同様の質問をすると、「そばと天ぷらは、どちらも日本の伝統的な料理で、それぞれ独自の技術とテクニックを要します。」という回答でした。おそらく、「寿司職人になるための伝統的な方法は、『寿司職人への弟子入り』で、修業期間はおよそ10年とも言われる」や、「『シャリ炊き3年、合わせ5年、握り一生』と言われるほど時間のかかる修業の日々が待ち受けています」との答えが返ってきました。これには、寿司職人になるには長い年月を要することが数字で認識しやすいことから判断しているのだろうと思います。そば職人の修行を表した言葉に「木鉢三年、延し三か月、包丁三日」というものがあります。「木鉢」はそば粉と水を馴染ませてこねる技術、「延し」はこねたそばをのし棒で広げていく技術、「包丁」は延したそばをたたみ、均一に切る技術のことで、3年以上でそば職人になれることになります。

 また寿司職人に関しては、6か月間で寿司職人になれる専門の学校がいくつもあります。中には2か月で効率よく知識・技術を学べば、卒業後に寿司職人として認定されるというスクールさえあります。

 しかし、天ぷら職人にはそのようなものが見当たりません。(調理師専門学校ではカリキュラムの1つとして天ぷら技術の習得は多数あるようです。)一般的に、一人前の板前として認められるまでに最低10年はかかると言われますから、天ぷらダネの下処理の修業だけでも10年はかかりそうです。その他の技術である「衣についての技術」、「油についての技術」、「揚げ方についての技術」等々を考えれば、仮に効率よく天ぷらの全てを教えてくれる夢のような天ぷら専門学校があったとしても、2ヶ月という短期間で天ぷら職人の認定というのはあり得ないでしょう。あるネット情報では、「老舗の天ぷら屋は一人前の職人になるまでに何年ぐらい修業するのですか?」という質問に対して、「30年」と端的に回答しているものがありました。

 文化庁のサイトに興味深いデータが掲載されていました。令和4年度「食文化の無形の文化財登録等に向けた調査(すし・てんぷら・うなぎ・そば)」

では、次のように報告されています。

令和5年1月版(2022 年 12 月3日~ 2023 年 1 月 7 日)タウンページデータベース統計情報

 《すし店》  47 都道府県の合計  20,040 軒
 《てんぷら料理店》 47 都道府県の合計  1,120 軒
 《うなぎ料理店》 47 都道府県の合計 2,590 軒
 《うどん・そば店》 47 都道府県の合計  17,500  軒

タウンページデータから全国のすし店、てんぷら料理店、うなぎ料理店及びうどん・そば店の店舗数の割合を見ると次のとおりになる。

  すし店:48.6% 
  うどん・そば店:42.5%  
  うなぎ料理店:6.3% 
  てんぷら料理店:2.7%

このことから、すし店とうどん・そば店が、それぞれ 40%以上と優勢であることがうかがえる。

とあります。

 これは何を意味するのでしょうか?
 Bing-AIは、最も技術を要するのは寿司だと回答しました。仮にそれが正しいのだとすると、最も難しい技術を要する寿司職人の方が、天ぷら職人の数よりも圧倒的に数が多いのには合点がいきません。常識的に考えれば、どんな分野であろうとその専門の技術が難しくなればなるほどその数は少ない傾向になるはずです。寿司屋の数が天ぷら屋の数に比べて圧倒的に多いのは、天ぷらという職人技術がより難しいことを示しているのではないでしょうか。寿司ネタが全国的に入手しやすいのであれば、天ぷらダネも同様に入手しやすいはずです。なのに圧倒的に寿司屋が多いということは、天ぷら職人になることの方が難しいのではないかと個人的にはそう思えてなりません。決して寿司職人の腕を蔑むわけではありません。ベテランの寿司職人の握る寿司はもちろん格別です。蕎麦屋にしても然りです。そして一流の天ぷら職人の天ぷらは絶品です。

 天ぷら職人として五十余年の経験を持つ「葉むら」の店主関沢氏の腕は本物です。ぜひ皆様にも、その天ぷらを味わっていただきたいものです。
(次回につづく‥‥‥)

(文:立)

注釈:文中で取り扱っているデータ等については、Bing AI(Chat-GPT4搭載)との対話及びネット情報、文献等からの筆者独自の分析によるものです。
参考文献:『天ぷらのサイエンス』(誠文堂新光社, 2022)