第7回
2024.02.18
「Maestro di Tempura」、ふとそんな言葉が頭に浮かびました。
「葉むら」の店主関沢氏をカウンター越しに見ていると、天ぷらを揚げるその姿は正しく「マエストロ ディ テンプラ」、天ぷら名人です。
頃合いを見計らって手際よくしかも絶妙な揚げ加減でお客様の天皿に運んでいくその妙技を拝見するのは、天ぷらをカウンターでいただく醍醐味の一つです。粉箸で衣をつけて鍋に入れ、菜箸で揚がった天ぷらを取り上げ、まな箸で揚げたての熱々天ぷらを目の前の天皿にタイミングよく運んでくれます。芸術品とも思える目の前の一品を絵画鑑賞のようにじっと眺めていてはいけません。躊躇することなく熱々を召し上がりましょう。それがカウンターで天ぷらをいただくマナーですから。
私は、その熱々の天ぷらを口へ運んで美味しく味わった後、いろいろなことが脳裏を過ります。たとえば、店主自ら豊洲へ足を運んで仕入れ、仕入れた食材の下処理をし、それぞれ丁寧にバットに並べ、お客様の注文に応じて、食事の進み具合の加減を見て、順序よく揚げていく。そのお出しする一品一品の素材にはその日の仕入れから天ぷらとなってお客様の口に運ばれるまでには一体どんな物語があるだろうかと常々思っています。同じ素材でも大きかったり小さかったり、数が少なかったり、豊漁・豊作だったりと、季節ごとに異なるでしょうし、当然日によっても違っていることでしょう。それは偏に食材が全て自然の恵みだからです。だからこそ有難く、そして価値あるものだと言えるのだと思います。そしてそれらの有難い天ぷらダネの素材の旨みを、天ぷら職人としての確かな腕で絶品の天ぷらへと昇華してくれるのですから、私の場合、一品一品味わっていただく度に感動するわけです。
おまかせでいただく天ぷらは、その日の旬のベストメンバーのオーケストラで、店主の関沢氏はいわばそのオーケストラの最高のマエストロなわけで、食べる者の五感を大いに刺激してくれます。食べ終えた後、流石にその場でスタンディグオベーションとはいきませんが、心の中では拍手喝采です。
どのコースにしようか迷ったなら、おまかせでいただく天ぷらもグッドチョイスだと思います。(次回につづく‥‥‥)
(文:立)
注釈:文中で取り扱っているデータ等については、Bing AI(Chat-GPT4搭載)との対話及びネット情報、文献等からの筆者独自の分析によるものです。
参考文献:『天ぷらのサイエンス』(誠文堂新光社, 2022)